DockerからPodmanへ:移行を通して得た5つの重要な気づき

気づき1:アーキテクチャの違い – デーモンモデルとデーモンレスモデル

コンテナ技術は、アプリケーションとその依存関係をパッケージ化し、隔離された環境で実行するOSレベルの仮想化技術です。これにより、環境差異による問題を解消し、アプリケーションの可搬性を高めます。

Dockerのアーキテクチャ:クライアント・デーモン・レジストリ

Dockerは、コンテナ技術の普及に大きく貢献しました。そのアーキテクチャは、ユーザーがコマンドを入力するDockerクライアント(CLI)、バックグラウンドでコンテナの管理・実行を行うDockerデーモン(dockerd)、そしてコンテナイメージを保管・配布するDockerレジストリ(Docker Hubなど)の3つの主要コンポーネントで構成されます。クライアントからの指示はAPIを通じてデーモンに伝わり、デーモンはコンテナランタイム(containerd経由でruncなど)と連携してコンテナを操作します。このモデルは、外部ツールとの連携やリモート管理を容易にする一方、デーモンがroot権限で動作するためセキュリティ上の懸念があり、単一障害点となる可能性も指摘されています。

Podmanのアーキテクチャ:デーモンレスという選択

Podman(Pod Manager)の最大の特徴は、Dockerデーモンが存在しない「デーモンレス」アーキテクチャを採用している点です。Podmanのコマンドは、バックグラウンドの常駐プロセスを介さず、libpodというライブラリを通じて直接コンテナランタイム(runcやcrunなどのOCI互換ランタイム)を呼び出し、コンテナを管理します。

このデーモンレスアーキテクチャには、セキュリティ向上(root権限デーモンが不要)、リソース効率(常駐デーモンのリソース消費なし)、systemdとの親和性(コンテナをsystemdサービスとして管理しやすい)といったメリットがあります。ただし、Docker APIに直接依存する一部ツールとの連携には課題が残る場合があります(PodmanはDocker互換APIを提供することも可能です)。

Dockerデーモンは一元管理の利便性を提供しますが、PodmanのデーモンレスはよりLinuxネイティブで軽量、かつセキュリティを重視したアプローチと言えます。どちらが優れているかは一概には言えず、利用シーンや重視する点によって評価が異なります。

気づき2:セキュリティへのアプローチ – ルート権限との向き合い方

コンテナの隔離が破られた場合のリスクを考慮すると、コンテナ内のプロセスがroot権限で動作している場合、コンテナエスケープによるホストシステムへの影響は深刻です。DockerとPodmanは、このルート権限との向き合い方において異なるアプローチを取っています。

Dockerにおけるセキュリティ

Dockerは当初、コンテナをroot権限で実行することが一般的でしたが、近年「ルートレスモード」が導入され、一般ユーザー権限でのデーモンとコンテナ実行が可能になり、セキュリティは向上しました。しかし、ルートレスモードの利用には、ユーザー名前空間やネットワーク設定などの知識が必要となる場合があります。

Dockerはまた、Seccomp、AppArmor、SELinuxといったLinuxカーネルのセキュリティ機能を活用し、コンテナの権限を細かく制御することで多層的な防御を実現しています。

Podmanにおけるセキュリティ

Podmanは、設計当初から「ルートレスコンテナ」を主要機能として、デフォルトに近い形でサポートしています。一般ユーザーは特別な設定を意識せず、自身の権限内でコンテナをビルド、実行、管理できます。

これは、Linuxカーネルのユーザー名前空間機能を活用することで実現されます。コンテナ内のUID/GIDをホストシステムのUID/GIDとは異なる範囲にマッピングすることで、コンテナ内ではrootとして振る舞いつつ、ホストシステム上では一般ユーザー権限しか持たない状況を作り出し、コンテナ侵害時のホストへの影響を最小限に抑えます。Podmanは、このルートレス運用を自然な形で提供することで、「セキュリティ・バイ・デフォルト」の思想を体現しようとしています。

DockerもPodmanもコンテナセキュリティ向上に努めていますが、Dockerは既存のエコシステムの中で段階的に強化を進め、Podmanは新しいツールとして先進的なセキュリティモデルを組み込んでいます。組織のセキュリティポリシーや運用体制、技術者のスキルセットに応じて、適切なツールと運用方法を選択することが重要です。

気づき3:複数のコンテナをどう扱うか – Docker Compose と Podman の選択肢

複数のコンテナが連携して動作するマイクロサービスアーキテクチャでは、複数コンテナの定義、起動、管理を効率的に行うツールが不可欠です。

Docker Compose:宣言的な複数コンテナ管理の定番

Dockerエコシステムでは、Docker Composeがこの役割を担ってきました。docker-compose.ymlというYAMLファイルに、各サービス(コンテナ)のイメージ、ポートマッピング、ボリューム、ネットワーク、依存関係などを宣言的に記述し、docker-compose upコマンド一つでアプリケーション全体を起動できます。シンプルさと直感的な設定ファイル、長年の利用実績による安定性と豊富な情報がメリットです。

Podmanにおける複数コンテナ管理

Podmanで複数コンテナを管理する方法はいくつかあります。

  • podman-compose: Docker Composeとの互換性を目指すサードパーティツールです。既存のDocker Compose資産を活かしたい場合に有効ですが、完全な互換性はない点に注意が必要です。
  • Pod(ポッド): PodmanはKubernetesの「Pod」と同じ概念をネイティブにサポートします。Podは、ネットワーク名前空間やIPC名前空間などのリソースを共有する1つ以上のコンテナのグループです。podman pod createでPodを作成し、その中でコンテナを起動することで、密接に連携するコンテナ群を管理できます。
  • podman generate systemd と Quadlet: Podmanは、コンテナやPodをsystemdサービスとして管理する強力な機能を持ちます。podman generate systemdコマンドは、実行中のコンテナやPodからsystemdユニットファイルを自動生成します。Quadletは、.containerや.kubeといった拡張子を持つユニットファイルを記述することで、より宣言的にPodmanリソースをsystemd経由で管理できます。

Docker Composeの手軽さと実績は魅力的ですが、PodmanのPodの概念やsystemdとの連携は、特にLinux環境下での堅牢なサービス運用において新たな可能性を示しています。既存のワークフロー、運用の複雑さ、OSとの統合レベルへの要求によって、適切な選択肢は異なります。

気づき4:オーケストレーションへの接続性 – Swarm と Kubernetes エコシステム

多数のコンテナを効率的に管理するためには、コンテナオーケストレーションツールが必要です。代表的なものにKubernetesがありますが、学習コストや運用の複雑さも考慮する必要があります。

Dockerとオーケストレーション

Dockerは、主にDocker SwarmとKubernetes連携の側面からオーケストレーションに関わっています。Docker SwarmはDockerに組み込まれた比較的シンプルなオーケストレーション機能で、中小規模環境やKubernetesの複雑さを避けたい場合に有効です。また、DockerはOCI標準に準拠したコンテナイメージを生成するため、KubernetesクラスタでDockerイメージを実行することが一般的であり、Docker DesktopにはローカルKubernetesクラスタを簡単に起動する機能も含まれています。

Podmanとオーケストレーション

Podmanは、特にKubernetesおよびそのエコシステムとの親和性が高い設計となっています。Podのネイティブサポートにより、開発者はローカル環境でKubernetesに近い構成でアプリケーションをテストできます。podman generate kubeコマンドは、Podmanで実行中のPodやコンテナの構成からKubernetes YAMLマニフェストを自動生成し、ローカル開発環境から本番環境への移行をスムーズにします。podman play kubeコマンドは、既存のKubernetes YAMLマニフェストをPodman環境で実行し、ローカルでの再現や検証を可能にします。

Podmanはオーケストレーション機能自体は内蔵していませんが、Kubernetesエコシステムへの強力な橋渡し役として機能します。開発段階からKubernetesを意識したワークフローを構築する上で、Podmanは有用なツールとなり得ます。Docker SwarmのシンプルさとPodmanのKubernetes連携のスムーズさ、どちらもオーケストレーションという課題に対する異なるアプローチであり、プロジェクトの規模や将来計画、チームのスキルなどを考慮して選択する必要があります。

気づき5:コマンド互換性の奥にある本質 – ツール選定の視点

Podmanへの移行を検討する際、alias docker=podmanという設定で多くのDockerコマンドがそのままPodmanで利用できる点がよく挙げられます。Podman開発チームはDocker CLIとの互換性を重視しており、日常的なコマンドはオプションを含めてほぼ同様に動作します。これは移行の障壁を大きく下げる効果があります。

しかし、表面的なコマンド互換性だけで「PodmanはDockerと同じように使える」と結論づけるのは、両ツールの本質を見誤る可能性があります。コマンドが似ていても、アーキテクチャ(デーモンレス)、セキュリティモデル(ルートレス優先)、ネットワーク管理(CNI vs slirp4netns)、Podman特有の機能(Pod管理など)は異なります。

例えば、ネットワーク設定では、Dockerがdocker0ブリッジをデフォルトで作成するのに対し、Podman(特にルートレス)ではslirp4netnsを使用することがあり、パフォーマンスや設定方法が異なる場合があります。ログの扱いやリソース制限の適用方法など、細かな挙動にも違いが見られます。

重要なのは、単にコマンドを置き換えるだけでなく、それぞれのツールがどのような設計思想に基づいて作られ、どのようなユースケースで強みを発揮するのかを理解することです。Dockerの成熟したエコシステムと豊富なツール、Docker Desktopの利便性は依然として大きなアドバンテージです。一方、Podmanのセキュリティへの先進的な取り組みやLinuxシステムとの親和性の高さは、特定の環境では非常に魅力的です。「DockerかPodmanか」という二者択一ではなく、プロジェクトの要件、チームのスキル、セキュリティポリシー、既存インフラとの相性などを総合的に判断し、時には両者を使い分ける柔軟な視点が必要です。alias docker=podmanは便利な第一歩ですが、その先にあるそれぞれのツールの「個性」を理解することが、真のツール選定へと繋がる道です。

DockerとPodman、それぞれの輝く場面

これまでの気づきを踏まえ、両ツールが特に強みを発揮するケースをまとめます。

Dockerが適しているケース:

  • 広範なエコシステムと豊富な情報
  • Windows/macOSでの開発(Docker Desktopの利便性)
  • 既存のDocker中心のCI/CDパイプライン
  • Docker Swarmによるシンプルなクラスタ管理
  • Docker APIに依存するサードパーティツールとの連携

Podmanが適しているケース:

  • セキュリティ重視の環境(デーモンレス、ルートレス運用)
  • RHEL系Linuxとの高い親和性
  • Kubernetes/OpenShift連携(ローカルPod開発、マニフェスト生成・実行)
  • systemdによるサービス管理
  • 軽量な実行環境、リソースが限られた環境
  • スクリプトによる自動化

これは一般的な傾向であり、個々のプロジェクトの状況によって最適な選択は異なります。

まとめ

DockerからPodmanへの移行を通して得た5つの気づきを解説しました。当初はDockerの代替として捉えがちだったPodmanですが、独自のアーキテクチャ、セキュリティへの強い意識、Kubernetesエコシステムとの親和性といった明確な個性と利点を持つツールであることが理解できました。

Dockerが築き上げたコンテナ技術の基盤と成熟したエコシステムの価値は揺るぎませんが、Podmanはより現代的なセキュリティ要件やLinuxシステムとの深い統合を目指す新しいアプローチを提示し、コンテナ技術の選択肢を広げています。重要なのは、それぞれのツールの設計思想、メリット・デメリットを理解し、プロジェクトの目的や環境、自身のスキルに合わせて最適なツールを選定・使い分ける能力を養うことです。コンテナ技術の学習と探求は今後も重要であり、本稿がその一助となれば幸いです。

参考文献

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