Rupert Sheldrake氏の提唱した「形態形成場(morphic field)」という概念は、議論の余地があるか?それとも疑似科学か?徹底解説
10代の頃にとてもワクワクして読んだ本があります。『生命の科学 – 形態形成場の新たな科学』(A New Science of Life: The Hypothesis of Formative Causation, 1981年)という本です。ふと、この少し古い本は現在どのように捉えらているのか、一つの文章にしてみたいという気持ちになりました。自分のためのもまとめでもありますし、Rupert Sheldrake氏に興味を持っている・懐疑的に見ている皆様への参考になればとも思います。
この概念を提唱したのは、イギリスの生物学者 Rupert Sheldrake氏です。彼のアイデアは、私たちの知る科学の枠組みを大きく揺るがすものであり、科学界からは賛否両論、いや、むしろ強い批判にさらされることが多いものです。では、一体この概念はどのようなもので、なぜこれほどまでに物議を醸すのでしょうか?単なる疑似科学として無視してしまって良いものなのか、それとも科学の新たな扉を開く可能性を秘めた、真剣に議論する価値のあるものなのか。
この記事を通して、形態形成場の概念を理解し、それがなぜ疑似科学とされるのか、あるいはどのような点で議論の余地があると考えられているのか、そして私たちの日常生活にも関連する「ミーム」という概念と比較しながら、多角的に検討していきましょう。科学を学ぶ皆さんにとって、既存の知識を批判的に検討し、未知の可能性に対して柔軟な思考を持つための一助となれば幸いです。
Rupert Sheldrake氏とは?異端と呼ばれた生物学者
まず、この議論の中心人物であるRupert Sheldrake氏について簡単に触れておきましょう。
Rupert Sheldrake氏は、1942年生まれのイギリスの生物学者です。ケンブリッジ大学で生化学の博士号を取得し、植物学の研究者としてキャリアをスタートさせました。一見、正統的な科学者の道を歩んできた彼ですが、その後の研究と思索は、従来の科学のドグマに大胆な疑問を投げかけるものとなります。
特に彼の名を一躍有名にしたのが、1981年に発表した著書『生命の科学 – 形態形成場の新たな科学(A New Science of Life)』です。この本で提唱された「形態形成場」の概念は、生物学、物理学、心理学など、多岐にわたる分野に影響を与え、同時に科学界に大きな波紋を投げかけました。この著作に対する科学界の反応は非常に厳しく、一部では「焼却すべきだ」といった極端な意見まで飛び出し、Sheldrake氏は「異端の科学者」あるいは「物議を醸す科学者」として認識されるようになったのです。
「形態形成場(Morphic Field)」とは何か?その概念を徹底解説
それでは、Sheldrake氏の提唱する「形態形成場(morphic field)」の核心に迫りましょう。
形態形成場とは、非常に大胆かつ革新的な仮説です。それは、「形や構造、行動、思考パターンといったものが、単に遺伝子や物理法則、化学反応といった既知の要因だけでなく、非物質的な『場』によって組織化され、過去の類似のシステムから情報や影響を受け継いでいる」というものです。
この「場」は物理的な実体を持たないとされ、特定の形態やパターンに対応しています。そして、この場が情報を伝達するメカニズムを「形態形成共鳴(morphic resonance)」と呼びます。形態形成共鳴とは、過去に存在した、あるいは現在どこかに存在する特定の形態やパターンが、非局所的に(つまり、距離や時間に関係なく)類似のシステムに影響を与え、その形態やパターンが再現されやすくなる、という考え方です。
例えるならば、ある特定の種類の生物が、過去の世代が経験し、獲得した形態や行動の「記憶」のようなものを、遺伝子や学習といった通常の手段とは別に、この形態形成場を通じて受け継いでいるかのようです。
Sheldrake氏は、この形態形成場と形態形成共鳴の概念を用いて、既存の科学では説明が難しい、あるいは完全に説明しきれていないと感じられる様々な現象を説明しようと試みました。
- 生物の形態形成: 受精卵が特定の生物の形に発生していく過程。遺伝子や細胞内の化学反応だけでは、なぜこのように複雑で正確な三次元構造が再現されるのか、という疑問に対して、形態形成場が設計図のような役割を果たしているのではないか、と提唱します。
- 本能や集合行動: 同じ種類の鳥の群れが一斉に複雑な動きをしたり、特定の動物が生まれつき特定の複雑な行動パターンを示したりするのは、個々の学習や遺伝子だけではなく、その種全体が持つ形態形成場の影響ではないか、と。
- 学習と記憶の獲得: 新しいスキルを習得したり、記憶が定着したりする際、脳の神経回路の変化だけでなく、関連する形態形成場との共鳴によって、より効率的に情報が獲得・定着するのではないか、と。特に、ある場所で特定の新しい技能が開発されると、物理的に離れた場所でも、類似の技能が習得されやすくなる、といった現象(これについても科学的な検証や解釈には議論がありますが)を形態形成共鳴の例として挙げることがあります。
- 化学物質の結晶化: 新しい化学物質が合成された際、最初の結晶化は難しいが、一度成功すると、物理的に離れた別の研究室でも同じ物質の結晶化が容易になる、という現象(これも科学的な解釈が定まっているわけではありません)も、形態形成共鳴によって説明できるのではないか、と示唆しています。
つまり、形態形成場は、生物や物理システムの「パターン記憶」のようなものを担い、非物理的、非局所的な影響を及ぼすことで、世界の様々な現象を形作っている、という非常にラディカルなアイデアなのです。
「ミーム(Meme)」との比較:情報の伝達と模倣
ここで、形態形成場と比較することで、その特徴がより明確になるかもしれない、別の興味深い概念に触れてみましょう。それは、進化生物学者リチャード・ドーキンスが提唱した「ミーム(Meme)」です。
ミームとは、文化的な情報が人から人へ、模倣や学習といったプロセスを通じて伝達される際の単位として考えられた概念です。歌のメロディー、キャッチフレーズ、ファッションの流行、技術的なアイデア、特定の宗教的信念など、人々の間で広まっていく様々な文化的な要素を「ミーム」と捉えます。ミームは遺伝子のように自己複製し、変異し、自然淘汰されることで進化していく、というアナロジーで文化の伝播を説明しようとするものです。
形態形成共鳴とミームは、どちらも「情報やパターンが伝達される」という点で共通点があるように見えるかもしれません。しかし、両者の間には決定的な違いがあります。
- 伝達の媒体: ミームは、主に言葉、文字、映像、行動の模倣といった、物理的な媒体や文化的なインタラクションを通じて伝達されます。インターネットの登場により、ミームの伝播速度は飛躍的に向上しましたが、それはあくまで物理的な通信ネットワーク上での情報のやり取りに基づいています。一方、形態形成共鳴は、物理的な媒体を介さずに、非物質的な「場」を通じて情報が伝達されると想定されています。
- 対象: ミームは主に人間の文化的な情報やアイデアを対象としています。対して形態形成場は、生物の物理的な形、行動、思考パターンだけでなく、結晶の構造といった物理的なパターンまで、はるかに広範な現象を対象としています。
- 科学的な位置づけ: ミームの概念は、文化人類学や社会学、心理学などの分野で、文化伝播のアナロジーやモデルとして一定の有用性が認められ、研究されています(ただし、その厳密な定義や「単位」としての実体性については議論もあります)。一方、形態形成場は、前述のように主流科学からは疑似科学と見なされることが多い、よりラディカルな仮説です。
ミームが、コンピュータネットワーク上の情報伝達や、あるプログラムコードの書き方が他のプログラマーに影響を与えて広まる様子(これは物理的な情報共有や学習の結果ですが)を説明するアナロジーとして分かりやすいとすれば、形態形成共鳴は、物理的なつながりがないにも関わらず、あるパターンが繰り返し出現することで、次に同じパターンが出現しやすくなる、といった、より不可思議な現象を説明しようとするものです。
なぜ「疑似科学」とされるのか?批判的な意見
さて、形態形成場の概念が、従来の科学の枠組みから大きく逸脱していることはお分かりいただけたかと思います。だからこそ、主流の科学界からは非常に強い批判を受け、「疑似科学」であると見なされることが多いのです。その主な批判点は、先ほども触れましたが、より詳しく見ていきましょう。
- 科学的な実証性の根本的な欠如: これが最大の理由です。科学的な仮説は、原則として検証可能で、反証可能でなければなりません。しかし、形態形成場の存在や働きを、客観的で再現可能な実験によって証明することが極めて困難です。形態形成共鳴がどのくらいの強さで、どのような条件下で発生するのか、それをどうやって測定するのか、といった点が不明瞭です。Sheldrake氏自身が提案する実験(例えば、「誰かが新しいスキルを習得すると、他の人がそのスキルを習得しやすくなるか」など)も、結果の解釈に恣意性が介入する余地があったり、他の既知の要因(例えば、情報共有や学習効果など)で説明できてしまったりするため、形態形成共鳴の明確な証拠とは見なされていません。
- メカニズムの完全な不明瞭さ: 形態形成共鳴が、時間や空間を超えて情報を伝達するという「非局所性」を持つとされますが、その物理的なメカニズムが全く提示されていません。既知の物理法則(例えば、電磁力や重力など)では説明できない、未知の相互作用を仮定していることになります。科学は「なぜそうなるのか」というメカニズムの解明を目指しますが、形態形成場についてはその部分が全くのブラックボックスであり、「形態形成場があるから」という、一種のトートロジー(同義反復)に近い説明になってしまっています。
- 既存の科学体系との深刻な不整合: 現代物理学、特に場の量子論や相対性理論は、情報伝達には光速という上限があり、空間的な隔たりを超えた即時の影響は存在しない(非局所性の禁止)という考え方を基本としています。また、現代生物学は、生命現象を遺伝子情報、タンパク質の働き、細胞内の化学反応、物理的な力といった、物質的な要素とその相互作用に基づいて説明しようとする物質還元主義的なアプローチで大きな成功を収めてきました。形態形成場のような非物質的で非局所的な影響を仮定することは、これらの確立された科学的な知見と根本的に衝突します。したがって、形態形成場を認めることは、これまでの科学が築き上げてきた膨大な知識体系を否定するか、あるいは大幅に見直すことを意味し、それに見合うだけの圧倒的な証拠が求められますが、それが存在しないため、ほとんどの科学者からは受け入れられていないのです。
- 説明の代替可能性: 形態形成場が説明しようとする現象の多くは、遺伝子、環境要因、学習、文化的伝達、物理的な自己組織化といった、既知の科学的なメカニズムや要因の組み合わせによって、少なくともある程度は説明可能です。形態形成場を持ち出す必要性がない、というのが多くの科学者の立場です。
こうした理由から、形態形成場は科学的な検証の俎上に載せることが難しく、従来の科学知識と整合しないため、「科学的な基準を満たさない」=「疑似科学」として、その存在や研究の価値を否定する意見が、科学界においては多数派を占めているのです。
「議論の余地がある」という見方・擁護的な意見
しかし、形態形成場に対して、単に疑似科学としてレッテルを貼るのではなく、「議論の余地がある」あるいは「一考に値する」と考える人々も存在します。彼らは、形態形成場の概念が持つ、既存の科学だけでは捉えきれない側面や、新たな可能性を示唆する点を重視しています。
- 既存科学の「説明の隙間」へのアプローチ: 確かに、現在の科学は多くの現象を驚くほど正確に説明できます。しかし、特に複雑な生命現象や意識、宇宙の成り立ちなど、未だ完全には理解できていない、あるいは従来の枠組みでは説明が非常に困難な現象も残されています。形態形成場は、そうした既存科学の「説明の穴」に光を当て、別の角度からアプローチしようとする試みとして捉えることができます。科学は常に、未知の現象に直面し、既存の理論では説明できない場合に、新たな理論や概念を生み出すことで発展してきました。形態形成場も、そうしたプロセスにおける一つの可能性として、すぐに否定するのではなく、真摯に検討する価値がある、と考える視点です。
- 科学的パラダイムの限界と転換の可能性: 科学史は、常識とされてきた考え方が覆され、新たなパラダイム(科学的な世界観や枠組み)が確立される過程でもあります。例えば、古典物理学から量子力学や相対性理論への移行は、物質や空間、時間の理解を根底から変えました。形態形成場のような概念は、現在の物質還元主義的なパラダイムが、世界の全てを説明するには不十分である可能性を示唆し、将来的な科学的パラダイムの転換につながる(あるいは、少なくともその必要性を考えるきっかけとなる)のではないか、と考える向きもあります。もちろん、パラダイムシフトにはそれを支持する強固な証拠が必要ですが、その可能性自体を閉ざすべきではない、という考え方です。
- 哲学的・概念的な深い示唆: 形態形成場の概念は、単なる科学的な仮説にとどまらず、哲学的な問いを深く掘り下げることを促します。物質と非物質の関係、全体と部分の関係(全体論)、意識の性質、記憶の本質など、科学だけでなく哲学や宗教、神秘主義といった領域とも関連付けられることがあります。世界を物理的な要素の組み合わせだけで理解しようとする物質還元主義に対して、非物質的な「場」や全体的なつながりの重要性を示唆する形態形成場の概念は、多様な視点から世界を捉え直すための思考ツールとして、科学的な証明とは別に、概念的な価値を持つと考えることができます。
- Sheldrake氏による継続的な研究と提案: Sheldrake氏自身は、科学界の厳しい批判にもかかわらず、形態形成場に関連する現象を検証するための実験デザインを提案したり、実際に実験を行ったりしています。彼の提案する実験の中には、従来の科学的手法を用いてある程度検証可能なものも含まれています。例えば、ある種の学習効果の伝播や、動物の予知能力といった現象に関する実験は、厳密な条件設定と多数の追試が必要ですが、科学的な探求の対象となり得るものです。彼のこうした地道な探求姿勢そのものを評価する声もあります。
このように、「議論の余地がある」と考える人々は、形態形成場が現在の科学の基準を満たしていないことを認めつつも、それが示唆する未知の可能性、既存科学への問いかけ、そして哲学的な深みを重視しています。彼らにとっては、形態形成場は、科学の最前線がどこにあり、未知の現象にどう向き合うべきかを考える上で、無視できないテーマなのです。
形態形成場に近い思想・哲学
形態形成場のような、非物質的な力や全体的なつながりが世界に影響を与えるという考え方は、科学の領域を超えて、古来より様々な思想や哲学の中に形を変えて存在してきました。形態形成場がこれらの思想から直接生まれたわけではありませんが、概念的な響き合う部分が見られます。
- 全体論 (Holism): システム全体の性質は、それを構成する個々の要素の総和よりも大きい、あるいは異なるとする考え方です。生命体や生態系など、複雑なシステムにおいて、部分の性質だけを見ていても全体としての振る舞いは理解できない、と主張します。形態形成場が、生物個体を超えた種全体や、物理システムの全体的なパターンを規定するという点で、全体論的な視点と親和性があります。
- 生気論 (Vitalism): 過去に生物学において有力であった考え方で、生命現象は、物質的な要因だけでなく、非物質的な「生命力」によって引き起こされるとします。科学的な検証に耐えられず衰退しましたが、生物を単なる機械としてではなく、何か特別な力を持つものとして捉えようとする姿勢は、形態形成場が非物質的な「場」の役割を強調する点と類似していると見なされることがあります。Sheldrake氏自身は、形態形成場は生気論とは異なり、検証可能な仮説であると主張しています。
- 集合的無意識 (Collective Unconscious – カール・ユング): 心理学者カール・ユングが提唱した概念で、人類全体に共通する無意識の層があり、そこに普遍的な元型が存在するとします。生物種の「記憶」のようなものが形態形成共鳴によって伝達されるというSheldrake氏の考え方は、ユングの集合的無意識が人類全体の精神的なパターンや記憶を共有するという考え方と、アナロジーとして比較されることがあります。
- プラトンのイデア論 (Platonic Forms/Ideas): 古代ギリシャの哲学者プラトンが提唱した、現実世界は永遠不変の「イデア」(形相)の不完全な模倣であるとする哲学です。個々の事物は、対応するイデアという非物質的な「原型」によってその形や性質を規定されている、と考えます。形態形成場が、特定の形態やパターンの「型」のような役割を果たすという点で、抽象的な類似性が見られます。
これらの思想や哲学は、科学的な検証の対象とは異なる次元で語られることが多いものですが、形態形成場を考える上で、私たちの世界観や、物質と非物質、全体と部分といった関係性に対する様々なアプローチがあることを理解する助けとなります。
参考文献:Rupert Sheldrake氏の著作を中心に
Rupert Sheldrake氏の形態形成場に『生命の科学 – 形態形成場の新たな科学』(A New Science of Life: The Hypothesis of Formative Causation, 1981年)ついて、さらに詳しく学びたい、あるいは彼自身の主張を直接読んでみたいという方のために、代表的な著作をいくつかご紹介します。ただし、繰り返しになりますが、批判的な視点を持って読むことが非常に重要です。
- 『生命の科学 – 形態形成場の新たな科学』(A New Science of Life: The Hypothesis of Formative Causation, 1981年)
- 形態形成場の概念を最初に提示し、その後の議論の火付け役となった古典です。彼の核心的なアイデアが網羅されています。
- 『存在の科学 – 生命場と宇宙の記憶』(The Science of Being: How the Spirit Works through Nature, 2012年)
- 形態形成場の概念をさらに発展させ、生命だけでなく、意識や宇宙全体における「場」の役割について探求した近年の著作です。
- 『科学という妄想 – 科学はなぜ頑なに心の真実を否定するのか?』(The Science Delusion: Freeing the Spirit of Enquiry, 2012年)
- 主流科学の前提や、生命、意識、宇宙といったテーマに対する科学の限界について、Sheldrake氏が批判的に論じた著作です。形態形成場を提唱する彼の思想的背景がより深く理解できます。
これらの書籍を読むことは、形態形成場の概念を提唱者自身の言葉で理解する上で非常に有益ですが、同時に、科学的な批判がどのような点に向けられているのか、自身の中で問いを立てながら読み進めることをお勧めします。
まとめ:結局、どう評価すべきか?
Rupert Sheldrake氏の提唱する「形態形成場(morphic field)」について、その概念、ミームとの比較、疑似科学とされる理由、議論の余地があるという見方、そして関連する思想・哲学を検討してきました。
現時点での科学界における評価は、形態形成場は実証的な根拠に乏しく、既知の科学法則と整合しないため、「疑似科学」と見なされる意見が圧倒的に多数派である、という現状にあります。科学的な仮説として受け入れられるためには、客観的で再現可能な検証に耐えうる明確な証拠が不可欠ですが、形態形成場についてはそれが提供されていません。
しかし、この概念を単に「疑似科学だから無価値」と一蹴してしまうのは、科学的な探究心を持つ者としては少し安易かもしれません。形態形成場は、既存の科学ではまだ完全に説明できていない現象(例えば、生物の複雑な発生プロセスや集団行動、あるいは集合的な学習効果の可能性など)に対して、大胆な仮説を提示しています。また、物質還元主義的な世界観に対して、全体論的・非物質的な視点から問いを投げかけ、私たちが世界をどう理解するか、科学の役割とは何か、といった根源的な哲学的な議論を促します。
形態形成場の概念は、科学のフロンティアがどこにあり、異端と呼ばれるアイデアにどう向き合うべきか、という難しい問いを私たちに突きつけます。科学を学ぶ皆さんにとって、シェルドレイク氏の概念は、既存の知識を鵜呑みにせず、常に批判的な視点を持ち、未知の可能性に対して開かれた思考を保つことの重要性を教えてくれる、示唆に富む事例と言えるでしょう。疑似科学か否かというレッテル貼りに終始するのではなく、なぜそう判断されるのか、その背後にある科学的な基準や思考プロセスを深く理解することこそが、科学的リテラシーを高める上で重要なのです。
読者への質問
この記事を読んで、Rupert Sheldrake氏の形態形成場について、皆さんはどのように考えますか?
- もし形態形成場のような非物質的な「場」が本当に存在し、生物や物理システムに影響を与えているとしたら、それは現在の科学やテクノロジーにどのような影響を与えるでしょうか?
- 「ミーム」のように文化的な情報が広まる現象と、形態形成共鳴によって生物の形や行動が影響を受けるという考え方、これらの類似点と相違点について、さらに深く考えるとしたらどのような点が挙げられますか?
- 科学と疑似科学の境界線について、あなた自身の考えを深める上で、形態形成場の議論はどのような点で参考になりましたか?
皆さんの探求心と批判的思考が刺激されたなら幸いです。科学の世界には、未だ解明されていない不思議がたくさんあります。形態形成場のように、議論の的となる概念も含め、多様な視点から世界を捉え、自身の頭で考えることを楽しんでいきましょう。